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愚者と罪人
日時: 2009/12/19 01:05
名前: 巌の蛟◆n3MJBPv2T6o 

どうも、お久しぶりです。巌の蛟です。

ここに掲載するのは完全オリジナルの作品です。

愚者と罪人 第零話(設定)>>1
愚者と罪人 第一話>>2
愚者と罪人 第二話>>3
愚者と罪人 第三話>>4
愚者と罪人 第四話>>5
愚者と罪人 第五話>>6
メンテ

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愚者と罪人 第零話 ( No.1 )
日時: 2009/12/19 02:10
名前: 巌の蛟◆n3MJBPv2T6o 

第零話(設定)



世界

過去の実験、事故の影響で魔力と言うものの存在が発生。

実験名:三大世界開門実験

別名、件名:ボソン・メルトダウン事件。

実験内容:聖地、霊場と呼ばれる場所にて魔法陣、紋章、魔法と呼ばれるものを使って次元の壁に穴をあけ、その世界の存在を発見、調査。

結果:次元に穴を開けることに成功。
 繋がった先は後に魔界と言われる。
 また、その他に霊界と言われるものがあることを確認される。

 尚、備考としてその穴、(以下、ゲート)より幾つもの悪魔と呼ばれるものが実験場に侵入、その場で実体化、顕現する者、その場にいた人間、道具に憑依し、具現化し、虐殺を開始。
 一年近く続いたその虐殺で死亡者、重軽傷者は十億人を超える。

 その他に、この実験を皮切りに人間を含めたすべて動植物に異変が起きる。
 また、空気中に限らず、あらゆる空間にて異物があることが確認された。
 のちにそれは『万物の元』『生命の息吹』『時空の基礎』『時空の異物』
俗に『マナ』と呼ばれることになる。
 あらゆる生物が後天的な生命力、筋力等の強化、その他の能力を任意的に使用、または発生できるようになる者たちの大量発生。
 その力を使いこなす人間たち、生物は俗に異能者と呼ばれるようになる。
 長年の調査の結果、周囲に漂うマナを体内に吸収(体内に蓄積されたマナはオドと呼ばれる)、変化して力にしていることが判明。
 俗にとあるが実質、すべての人間は力の大きさの差はあったが、この異能者となった

 これらは後に魔術師、魔道師と呼ばれるようになる。

 政府はこの実験、及びその方法を封印。

闇に葬られるはずだった。

 事件名:天魔戦争事件

 ボソン・メルトダウン事件で地上に現れてしまった悪魔の殲滅より半年後。

 再び地上に他世界の生物、悪魔が現れた。

 のちに他世界から現世に来る者のことを『訪問者』と命名することとなり、また魔術、魔法の使用方法が確定したのもこの時である。

 これを天魔戦争事件と呼び、これを皮切りに各国の政府は闇に葬られたはずのボソン・メルトダウン事件、三大世界開門実験の存在を公表。

 だが、それでも尚、儀式の方法は隠蔽された。

 『訪問者』の選択は現段階では出来ないからであり、これ以上の状況の悪化を防ぐためである。

 世界は混沌と混乱に落ちる筈であった。

 いや事実、世界は混沌に満ちた。

 この事件により、悪魔の存在を証明してしまったのだ。
 そして、人を、世の中を、世界を恨む人間や社会不適合者による悪魔崇拝者を大量発生させた。

 そして、彼らはこぞって自己流で悪魔召喚の儀式を行った。
 その中での救いはそのほとんどの儀式が成功しなかったことであろう。

 だが、それでも悪魔の侵攻を止まらず、人々は絶望に覆われた。

 だが希望無き絶望は存在しなかった。

 一人の音楽家が召喚を成功させたのだ。
 天魔戦争における『天』、神の代行者の存在、天使の召喚を、である。

 そしてそれは、現在に続く魔法文化の始まりであった。

 なぜ、聖職者でもなく悪魔信者でもない、音楽家がそれを成功させたか?

 その理由はいくつか存在する。

 一つは彼女がボソン・メルトダウン事件後に発生した優れた異能者、後に魔術師と呼ばれる存在になっていたこと。

 二つ目がバイオリニストであったこと。

 その時、奏でた音色が魔法の詠唱と同じ効果、特性を持っていたこと。

 また、その時、同じく異能者であり、異能研究者であった通称イエスマンと言うが学者がいたのも幸運の一つと言えるであろう。

 その学者の研究により、幾つかの特性、法則を発見した。


 一つ、人間には魔法の呪文を詠唱するため声帯がないこと。
 二つ、人間に限らず、『訪問者』も魔法を使うには儀式領域と言う結界を張らなくてはいけないということ。
 三つ、魔法には属性と言う複数種類、及び特性と言うものを持っていること。
 主なものは火、水、土、風、雷、光、闇、因とそれぞれに対応される特性がある。
 四つ、儀式領域の展開、魔法の行使には方陣式、詠唱式、紋章式、変則的ではあるが記号(ルーン)式の四種類がある。
五つ、魔法と言うものは生物がマナ、またはオドを練りこんで作られた魔力を燃料として発動する。その関係上、魔力そのものを使ったものは魔術と呼ばれるものでは基本的に魔法に勝てない。
 六つ、方陣式、詠唱式、紋章式の三つはその儀式領域内にいなければ魔法が使えない。
 七つ、記号式は六つ目のものとは違い、儀式領域内にて効果を発生させる。また、その種類もその使われる記号によって効果が限定される。
 八つ、紋章式は『訪問者』の魂を宿した物、俗に呪具と呼ばれる物を持った者にしか使えないものであり、属性こそ限定されるがその儀式領域の展開速度、魔法の発動速度、威力は一、二位を争う。
 九つ、儀式領域は地面や物を起点にしているわけではなく、あくまで空間に固定されている。
 故に、移動しながらの魔法を使うことはできない。

以上の九つ。

 これらを駆使して人類は生き残った。
 多くの犠牲と絶望、そして、小さな希望を抱いて。



 件名:赤い血の本事件

 概要:イエスマンの遺品の一つである赤い本を使った事件であり、天魔戦争終結時から起こる多くの魔法事件一つであり、最近においての魔法が関連ものにおいての最悪の事件である。

 内容は一人の子供が起こした殺人、及び違法魔法の行使。
 この事件にはその子供の両親とその幼馴染の母親が犠牲になった。

 訪問者の魂を欲したのだろう。
 その企みは成功した。おそらく、魂の器がけた外れに大きいのだろう、その右腕に二度と外れない銀色の籠手を持つことになったが。
 理由は単に力を求めたからの犯行と結論された。がその理由には多くの疑問が残った。
 この件で使われた赤い血の本は因果律、運を変換、捻じ曲げることを主にした魔道書であり、次元の穴、ゲートを開くことが目的ならば別の魔道書でもいいのである。
 なのになぜ?
 だが、この疑問は闇の中に葬られた。

 のちに子供は魔界にある『地獄』へ追放された。
 が、数年後、その子供はその地獄より生還する。

 刑期の終了が認められたが、力のために両親とそれ以外の人間を生け贄にささげたその子供が世間に認められるわけがない。

 少年は囚人という奴隷として今もなお、その罪を償い続けている。




 その子供の名前は雑賀 達樹という。




目次>>0
第一話>>2
第二話>>3
第三話>>4
第四話>>5
第五話>>6
メンテ
愚者と罪人 第一話 ( No.2 )
日時: 2009/12/21 01:04
名前: 巌の蛟◆n3MJBPv2T6o 

罪人と愚者 第一話




目次>>0
第一話>>2
第二話>>3
第三話>>4
第四話>>5
第五話>>6



ヒュンっと空気を裂く音が響き、遅れてチンと澄んだ音が通路に響いた。
 そこは真紅に染まったホールであった。
 周囲を囲むように配置された窓から橙色の夕日の光が入っている。
 そんな中、ギィィィィィィっと言う轟音が響く。
 いや、それは轟音ではなかった。

 次の瞬間、ドゴンっと言う轟音が響き、空間が歪む。
 その瞬間、誰もいない、何もいない空間が、歪み、まるでカーテンの幕が払われるかのように、その中より毒々しい紫色の甲冑に包まれた異形が現れる。

 その下半身は四足の蜘蛛、上半身は人間。
 その顔からは西洋型の兜が開き、赤い口が見える。

 コホオォォオっと白い蒸気の様な吐息が洩れる。

 その時、ゴガンっと重苦しい音を立て、木目の扉が開く。
 そこから現れるのは黒い服装。
 黒のスラックスにブレザー。
 右手には不格好な機械の杖。
メタリックグレーのその杖は先端に四角いスピーカーの様な口を持ち、その下には細いスリットが一つ刻まれた四角いパーツとリングに一括りにされた薄い金属板。
 その金属板には無秩序に小さくデコボコがある。
 その容姿は扉から差し込む夕日が逆光となり、ハッキリとさせない。

 コツリっとその人影が歩を進める。
 コツコツコツっと歩き、右手に持った杖の先端を掲げる。
 シャランっと金属板が音を鳴らし、まるで風に吹かれた本のページの様にパラパラ捲り上げられ、その内の一枚がスリットに納まる。

 その瞬間、先端の口の部分から耳を劈くような音が響き、それに魔力が反応して空間が歪み、球体状に広がっていく。

それと同時に異形も悲鳴を上げる。
 その瞬間。口から紫色の魔力が球体状に広がり、異形を包む。

それは俗に儀式領域と呼ばれるもの。
これを展開することによってしか魔法を使うことはできない。

 また、これは軸、位置がその空間に固定されている。
 この儀式領域の展開方法は四つ。
その中で良く使われるものが詠唱式と方陣式の二つである。

 いや、それは人だけではなく異形の生物とて同じである。
 大まかな属性、特性、効果は儀式領域が展開される時に決定される。

 そして、その人影の周囲に五つの、まるで空間から溢れ出るように水玉が作りだされる。

 それに相対するかのように半人半蜘蛛の異形の周囲に六芒星の魔法陣が六つ、展開される。

 次の瞬間、その六つの魔法陣から人影に向かって一条の白い糸の束が放たれる。
 ドパァっと放たれた一条の糸が人影を捕えようとする。

それに対し、人影は周囲に作りだした水玉を発射。糸を撃ち落とそうとする。
 だが、収束率が足りなかったのか、水弾が次々と弾ける。

 ドパァッパァンっと弾ける水弾。
 それを無視して白い糸が伸びる。

人影は、ック、と舌打ちして左に跳ぶ。
 その人影がいた場所に白い糸の波がぶち当たる。
 ドバァッ、と弾け、固まる白い糸の束を横目に人影は杖を構える。

 バサっと言う様に藍色のロングヘアーが靡く。

 その人影は女性であった。
 いや、少女と言うのが正確なのかもしれない。

 だが、少女と言うには彼女は美しすぎた。
 鋭い印象を与える整った顔立ちに鋭い目。

 その少女は杖を構える。
 カシュっと金属板がスリットからひとりでに抜き出され、入れ替わるかの様に別の金属板が差し込まれる。

 それを少女は確認せず、杖の石突きをドッと床に叩きつける。
 先端のスピーカーから再び音が奏でられる。
 それに合わせ、再び儀式領域が展開され、色を得た魔力とマナが広がる。

「喰らえ!!」

 雄叫びを一つに、ゴゴゴゴ、と地鳴りを鳴らし、次の瞬間、岩の槍がドドドドっと隆起し、半人半蜘蛛を突き上げる。
 ギイィィィイっと悲鳴を上げるその異形は四本の足をバタつかせる。
 その紫の装甲は岩の突き上げを受け、所々へこんでいた。

 そこへ更に少女は杖を掲げる。
 シャラン、と金属板が音を鳴らし、金属板が入れ替わる。
 キュイイインっと起動音が鳴り、再び儀式領域が展開される。
 
「SHOT!!」

 言葉を一つ。
 周囲に帯電した光の球が四つ、作りだされ、放たれる。
 バリバリっと電撃が走る。

 その電撃の球は狙い違わず異形にぶつかる。
 バリバリっと電流が異形の体を流れ、激しく痙攣する。
 ビクビクっと震える異形を睨みつけながら少女は杖を再び構える。

 再びシャランっとリングに一括りにされた金属板がスリットに差し込まれる。

 その瞬間、幾つもの音が奏でられる。

 それはコォォォっと言う空気が鳴く音とキィィッと金属が無理やり裂かれるような音。

 二つの不協和音が奏でられ、巨大な儀式領域が展開される。

 ゴオオオっと少女を中心に暴風が吹き荒れ、藍色の髪が巻き上げられる。
 その頭上に青白く帯電した球体が形作られ、やがて、それはオオカミの形に変わっていく。

「雷獣招来、行け!!」

 凛とした少女の声が響き渡り、頭上にいる雷の狼が異形に向かって駆けだす。
 ゴウッっと空気を薙ぎ払いながら狼の雷獣が一陣の閃光となって異形の胸部を貫く。
 遅れてズドンっと言う轟音が響き渡る。

 白い蒸気が風穴の空いた胸部より漏れる。
 そしてゆっくりと異形の体がゆっくりと傾げた。

 ゴゴゴっと異音を響かせ異形がホールの床に倒れた。

 ドゴンっと甲冑を身に纏った半人半蜘蛛の巨体が倒れた轟音が響き渡り、甲冑に罅が入り、それが徐々に広がっていく。

 やがて異形は薄茶色に変色し、砂となり、崩れていく。
 ザーッとまるで滝の様に崩れていくその様はまるでそれがいた存在を消すかの様であった。

「ふぅ」

 少女は異形だった砂の山が完全に崩れ去るのを確認し、ゆっくりと溜息を吐いた。
 その中、パチパチパチっと拍手する人影があった。

 ブレザーにスラックスと言うどちらかと言えば男子生徒の様な服装をしている少女とは対照的に、ブレザーにスカート姿の少女であった。

髪はピンクのセミショートで、緩くカールがかかっている。
 その中、後頭部に赤いリボンが結んである。

「さっすが、学園きっての天才って呼ばれるだけありますよね〜、朔夜さん」

 妙に間延びしたその話し方に、藍色の髪の少女は苦笑を浮かべる。

「何を言ってるのよ、ほのか、この程度の奴なら、あなただって倒せるでしょ?」

 それに対し、ほのかと呼ばれたピンクの髪の少女はクスクスっと笑いながら手を顔の前で振る。

「こんな鮮やかには倒せないよ」
「嘘おっしゃい、アグニの炎だったら瞬殺でしょ?」

 ほのかの言葉を朔夜はすぐさま言い返し、それにほのかは苦笑を浮かべて後頭部に結んだリボンを手で弄る。

「実際の試験じゃ、この子の使用は認められていないけどね?」

 その言葉に再び朔夜が苦笑を浮かべる。

「まあね?その子の炎、シャレにならないから」
「おしゃべりはそこら辺にしなさい」

 その時、朔夜の言葉を遮る声が響く。

 その声がした先、開け放たれた扉に一人の妙齢の女性が立っていた。
 赤い髪のロングヘアーにスーツ姿の、背の高く、きれいな女性であった。
 その手には穂先が刃ではなく鐘が付いている杖であり、その下には直接、杖本体に差し込むタイプのカードリーダーと幾つもの、紐で吊るされたスペルカードの金属板が吊るされていた。

「ミサト先生」

「すみませんが、彼の所へ、様子、見に行ってくれませんか?」

 その赤い髪の女性は困ったかの様に眉根を寄せて言い、それを朔夜とほのかは眉根を寄せ、不機嫌そうに言う。

「いやです!」
「……先生が行けばいいのでは?」

それにミサトは困ったかの様に眉根を寄せていう。

「私はジュンくんの方を見に行かないといけません。彼は達樹君と同じく魔術師タイプですから」

「でしたら私たちがそちらに向かいます」

間髪入れず、朔夜がそう言うが、それをミサトは首を左右に振る。

「彼、あれでプライド高いからね、それにあなたを毛嫌いしているきらいがあるし」

 その姿を思い出したのか、ミサトは口元に空いている手を当て、苦笑を浮かべる。

「そんなわけだからお願いしますね?」

 そう微笑みかけるミサトに朔夜とほのかは苦虫を噛み潰したような顔をする。
 それを横目に見ながらミサトは入って来た扉より外にでる。

 その後ろ姿を見ながら朔夜はほのかを横目に見る。
 確かに彼はプライドが高く、よく朔夜とほのかに突っかかって来る。

 その逆にタツマには懐いており、よく木陰で一緒にいるのを見かける。
 なんであんな人殺しに懐くのかは分からないが・・・。

 そんなことをつらつらと考えながら朔夜はゆっくりと出口へ向かって歩いていった。
 その後ろをほのかが付いていく。

 見ればほのかの表情も強張っている。

「……確か、あいつは16番ホールだったわね……」
 そう呟く朔夜の横顔を通路から差す夕日が照らした。






 ***







 ズドンッ!

 朔夜とほのかたちがいたホールとは同じ作りの別の場所。
床を形作る大理石が砕ける。
 そこにいたのは巨大な白い猿。
 ただ、それは赤い筋肉繊維と白い毛皮に包まれたモノではなく、白い鉄の甲冑に包まれた真鍮の歯車で動く獣であったが。

 それはギギギギっと異音を立て、片足で地面を踏み締める。

 コォォンっと鈍く、だが妙に響く、音叉の様な鳴き声を口から吐き出す。
 それと共に、ゴウッと空気を薙ぐ音を響かせ、白い魔力で作られた儀式領域が作られていく。

 その次の瞬間、その猿の周囲に計四本の竜巻が作られる。
 再び、コオンっと一鳴きすると同時、その作りだされた四本の竜巻が縦横無尽に走りだし、ホールの壁と床を抉る。

その時、チンっと軽金属がぶつかり合う音が響き、白猿の右側に白い魔力で形作られた儀式領域が展開される。
 その領域の中に、何時の間にいたのか、一人の少年がいた。

 ズッシリと腰を落とし、前屈み気味に右半身を白猿の方に出した体勢で、その左手は腰に添えられた形で刀、居合刀が握られている。
 その刀は白い靄、魔力を纏っており、その柄に革手袋を嵌めた右手が添えられており、すでに鯉口が切られている。

 少年はその刀の柄を黒い革手袋に包まれた手袋で握り締める。
 次の瞬間、パリンっとガラスが砕ける音を響かせて白の儀式領域が弾ける。
 それと同時に少年は駆けだし、抜刀。

 シャンっと澄んだ音を響かせ、銀色の閃光が三本、走る。
 ダンっと踏み込んだ床が窪ませ、反対側にまで駆け、チンっと音を立てて納刀する。
 その次の瞬間、左足が横へ三つに切断され、バラバラになっていく。
 ガシャンっと、カランっと、白い装甲と真鍮の歯車が床に落ち、転がる。

 その時、コォォンっと再び音叉を叩いたような鳴き声が響き、儀式領域が展開され、床にちらばった装甲と歯車が宙にゆっくり浮きだす。
そして次々とそれが組み上げられ、切断されたパーツが元の状態になっていく。
 コォォォンっともう一鳴きする白猿。
 それと同時にカチリカチリっと歯車が噛み合わさっていく。
 その時、反対側まで駆け抜けていった少年は振り向くと同時に懐から黒光りする物を抜き放つ。

 その抜き放った物、たった4発しか装填出来ない、リヴォルバータイプの拳銃を白猿の方、その修復されている左足に向け、三点射。
 ドンドンドンっと鈍い轟音を立てて放たれた弾丸が狙い違わず、装甲の隙間を縫い、歯車に撃ち込まれていく。
 だが、そんなこと関係ないとでも言うかの様に白猿は左足を前に出そうとし、つんのめる。
 ガクンッと前のめりに倒れる白猿は、ドガンっと鋼の両手を床に着き、赤いレンズの目を怒りに光らせ、少年を睨みつける。
そして、口角を開き、コォォンっと一鳴きし、再び儀式領域を展開する。
 白い魔力が白猿の体を覆い、ゴゴゴッともギギギッとも言える異音が響く。
 再び、コォォンっと言う音叉を叩いたような音が響き、儀式領域が展開され、自身を覆う白い魔力の密度が増す。
 だが、それに比例し、白猿の体から軋む音が響く。
 ギギギッと軋みを上げる白猿を少年は静かに見上げ、右手に握るリボルバーに弾丸を込め、再び三点射。
 ドン、ドン、ドンっと轟音を立て、首筋にある装甲の隙間に撃ち込まれていく。
 さらにギリギリギリっと異音を更に周囲へ響かせる白猿。
 そして、グシャッと言う様に、完全に床に倒れる。
 少年は身動きを取れなくなった白猿を見下ろし、目を細める。

 その視線の先、白い装甲の下の中で回り、蠢いているはずの真鍮の歯車が不協和音を鳴らしている。
 その歯車と歯車の隙間に、歯車に噛まれた形でキラリと鈍く光るものがある。
 それは先ほど撃ち込んだ弾丸であった。
 再びコォォンと言う鳴き声が響く。

 それに伴い、白猿の全身を覆う魔力の密度が更に濃くなり、歯車が軋む音がさらに大きくなる。
 少年はそれを静かに見下ろし、腰に差していた刀を鞘ごと引き抜き、一閃。

 シャランと、一瞬の間の抜刀、斬撃、納刀の三つの動作をこなし、ゆっくりと腰のベルトに差し込む。

 その次の瞬間、ギギギッっと金属がゆっくりと、所々引っ掛かるかの様に、白猿の頭が左右対称に、上下にズレ、その軸から、赤い液体が滲み出、流れ落ちる。

 頭部を縦一文字に切り裂かれ、白猿は赤いレンズの瞳を点滅させ、光が消えると同時に白い装甲と真鍮の歯車で作られた体が一気に崩れていく。

そんな中、少年は終始、無言に、無表情にそれを眺める。

「霊界からの『訪問者』の憑依体の破壊完了」

ポツリっと静寂に満ちたホール少年の声が響く。
その声音は年相応にハリのあるものだが、その声音は疲れ、老いた老人のそれを彷彿させる程、無機質に思えた。

「………」
「………っち」

 その少年の言葉に答えるかの様にホールの入口に立っている二つの人影、苛立ちを抑えるかの様に無言の朔夜と逆に苛立ちを隠さずに舌打ちをするほのか。

 それを無表情に見る少年。

 そして、少年はゆっくりと目を閉じ、出口の方、つまり朔夜達の方へ向かって歩いていく。

 それを朔夜とほのかは忌ま忌ましそうに、目を細めながら見送る。

 その中、少年、雑賀・達樹(サイガ・タツキ)は無言のままホールの扉を開いた。



第一話完

メンテ
愚者と罪人 第二話 ( No.3 )
日時: 2010/03/24 22:16:35
名前: 巌の蛟#koko102 

罪人と愚者 第二話






 大きく広い、壇上を軸に扇型に広がる講堂。
 その頂点にある壇上から、外側へ向かって行くにつれ、階段状に段差が出来ており、弧の部分には三つの出入り口があった。

 そして、その講堂の教卓がある檀上の上に一人の赤いロングヘアーの女性がいた。
 その女性は出席簿を片手に壇上に立っており、背に設置された投影型電子黒板の上に指動かす。

それに伴い、電子黒板がその女性の指の軌跡を白い線が追う。
 それはすぐに文字と成り表示される。

「皆さんご存じのとおり、今から百五十年前の実験、三大世界開門実験が行われ、私たちがいる世界、現世とは別に、魔界、霊界の存在と魔法の存在が確定されました。
しかしそれは同時に今に続く悪夢の始まりでもありました」

 その女性の背後の電子黒板に表が作られ、左側に数字、中央に出来事、右側に内容が書かれる。

「魔界、霊界より来る者たちを他世界生物、訪問者と呼びます」

 こちら、つまり生徒たちの方へ振り向いて話す女性はコンッと裏拳で軽く空中に写し出されている電子黒板を叩き、それに反応して投影された電子黒板は幾つかのパーツに分解、裏表をひっくり返す様に回転しながら二枚に別れる。
左下と右上に別れたそれは右上の画面には神々しく均整のとれた四肢の、異形の男女に獣などが写り、左下の方にはそれとは逆に禍々しく、また、その姿も秩序のないものが映っている。
 それは寄生生物にやられたかのように不格好に、不気味に変色、変態した牛やタイヤと車体の間が長い脚で繋がった車など、様々な異形が映し出されていた。

「その『訪問者』にも上中下とランクがあり、上位の『訪問者』は媒体なしでこちら、つまり現世に顕現できるほど力を持っており、凄腕の魔道師十人分の力があるほどです。
その力は、見習いとは言え魔道師のあなたたちなら分かるでしょう。
上位の『訪問者』と言うのはそれほどまでに力があります」

 女性はそこで、ただ、と続ける。

「それほどの力を持つのは上位以上のものだけであり、その下の中位、下位の『訪問者』には質量の違いこそあれ、何かしらの媒体が必要であり、その力も、下位のものであるのいならば、凄腕の魔道師、魔術師なら一人で、あなたたちの様な学生でも三、四人。経験を持った人でしたら一人で倒すことが出来ます」

 女性はそう言って席に座る生徒たちを見回し、とある一点を見る。

「例えば魔道師ならばそこの朔夜さんやほのかさんですね」

 その言葉にその部屋、教室にいた男子生徒の制服を身に纏った藍色の少女は静かに頬笑み、その隣にいたピンクのセミショートの少女が恥ずかしそうに、はにかんだ笑みをうかべている。
 その他に教室にいた生徒たちが尊敬の微笑みを浮かべていたり、尊敬の視線を向けていたりする。

 ただ一人を除いて。

 その一人の少年の方を女性は見る。

「そして魔術師としてなら達樹君ですね」

 その女性の言葉に教室の空気が凍った。

 その中で、少年は黒い短めの髪に黒い革手袋を嵌め、左脇に立て掛けた居合刀を左手で弄る。

 その姿を忌々しそうに見る、あるいは汚いものを汚いものを見たかのように視線を逸らす生徒たち。

 それを女性はやれやれっと首を左右に振り顔を上げた。

「話が逸れてしまいましたね、過去の、それらの実験、事件は目を覆いたくなるような凄惨な事件がありましたが、偶然起きた奇跡とそれからの過程において、人々は訪問者に対抗できる手段を得ました」

 その奇跡が何なのか。

「朔夜さん?お願いします」

 女性の言葉に朔夜を始め、重い空気を放っていた生徒たちは一斉に朔夜を見る。

「・・・はい」

 朔夜は返事を返しながら席を立ち、ゆっくりと電子黒板の方を見る。

「初めての召喚魔法、それも天使の召喚の成功。それは天魔戦争時において、人類初の、その名にある天使を召喚した奇跡」

 そこで朔夜は一つ息を吐き、続ける。

「その奇跡を起こした者が楽師マリア。それから『召喚』を始めとした『魔法』の方法の発見、その発見者を通称イエスマン」

 朔夜のその言葉に女性は一つ頷く。

「くしくも、キリスト教に名前を刻まれた二人が召喚を成功させました」

 そう言いながら教卓にあるボタンを一つ押し、ピッと電子音を一つ響かせ、背後にある電子黒板が先程と同じように幾つものパーツに分解されながら回転し、再び写されていたものを変え、一枚に戻る。

 それに写されているのは白い包帯男と年若い、金のロングヘアーの白人女性。

「彼女たちのおかげで私たち人類は『訪問者』の専売特許の魔法と言うもの使えるようになりました」

 そこで一つ間を入れ、周囲を見る。

 皆、席に着きいてこちらを見ている。

「楽師マリアが召喚魔法を成功させたこととその召喚された天使から、魔法に関して幾つか分かったことがありました」

 一つ、人間には魔法の呪文を詠唱するため声帯がないこと。
 二つ、人間に限らず、『訪問者』も魔法を使うには儀式領域と言う結界を張らなくてはいけないということ。
 三つ、魔法には属性と言う複数種類の特性と言うものを持っていること。
 四つ、儀式領域の展開、魔法の行使には方陣式、詠唱式、紋章式、変則的ではあるが記号(ルーン)式の四種類がある。
五つ、魔法と言うものはマナ及び魔力と言うものを燃料として発動する。その関係上、魔力そのものを使ったもの、魔術と呼ばれるものでは基本的に魔法に勝てない。
 六つ、方陣式、詠唱式、紋章式の三つはその儀式領域内にいなければ魔法が使えない。
 七つ、記号式は三つのものとは違い、儀式領域内にて効果を発生させる。また、その種類もその使われる記号によって効果が限定される。
 八つ、紋章式は『訪問者』の魂を宿した物、俗に呪具と呼ばれる物を持った者にしか使えないものであり、属性こそ限定されるがその儀式領域の展開速度、魔法の発動速度、威力は一、二位を争う。
 九つ、儀式領域は地面や物を起点にしているわけではなく、あくまで空間に固定されている。
 故に、移動しながらの魔法を使うことはできない。

「以上の九つを基本に、楽師マリアが見つけ、今にある魔法は発展していきました」

 朗々と紡がれたその言葉に女性はウン、と頷きながら微笑を浮かべる。

「ありがとうございます朔夜さん。彼女の言う通り、魔法には幾つもの制約と特性があります。魔術は魔法に基本的には敵わない。それはその場より動けない、言わば即席の砲台となる、なってしまう魔道師の弱点であり、今も魔術師が現存する理由です」

 そこまで言うと、教卓の下に置いておいたのであろう、先端に釣鐘を付けた杖を取り出す。

「さて、魔法には四つの発動方法があります。方陣、詠唱、紋章、記号。その中で、奇妙なものがあるのは皆さん気付いていますか?」

 その言葉にその教室にいた生徒たちが苦笑を浮かべる。

 その言葉を理解しているほのかと朔夜も苦笑を浮かべ、達樹のみが無表情に下にいる女性を見ている。

 その中、学生の一人が手を上げ、言う。

「紋章式でしょうか?魔法陣を描いて儀式領域を展開するのは方陣式ですから、むしろ、紋章式が何なのか?と言うことになりますし」

 その言葉に女性は一つ頷き、答える。

「確かに、紋章式も特異なものに当たりますが、違います」

 では何だろう、と苦笑を消して首を捻る生徒たちを見回し、手に持った杖を掲げる。

 あっと声を上げる数人の生徒たち、それに構わず、女性は杖を軽く振るう。

 その杖は先端部に吊鐘を付け、その下の部分にはカードリダーと輪に吊るされた金属板が幾つもあった。

 その金属板の束がパラパラっと捲り上がり、その内の一枚がカードリダーのスリッドに納まる。
 ドウッと魔力が杖に流される中、カラン、カラン、カランっと釣鐘が鳴る。
 その音に触発されるかのように女性を中心にゴウッと空気を押しのける音が響く。
 ゴウゴウッと空気を薙ぐ音の中で、カラ、カランっと鐘の音が響く。

 その魔力が渦巻く場所、儀式領域から発生する暴風に朔夜は髪を抑えながら目を細め、ほのかも髪とスカートを抑えながら、わ〜っと感嘆の声を上げる。

 その他の生徒も目の前の光景に目を奪われている。

 ただ一人、達樹だけがその光景を細めで見ていた。

「答えは詠唱式」

 ポツリと女性の口から呟きが漏れる。

 最後に、カランと鐘を鳴らし、女性は更に言葉を紡ぐ。

「我を囲むは悠久の闇と無限の星。その幻想を、広げ、広がれ、この場を包み込むように、刹那の夢を見せよ・・・・・・」

 カランっともう一度、吊鐘を鳴らし、魔力の嵐が弾ける。
 爆発するかのように魔力が教室を覆い尽くし、それと同時に発生した突風に学生たちが目を瞑る。
 そして目を開くと彼等は目を疑った。

 目の前に広がるのは扇状の教室ではなく、広大な空間であったからだ。

 それは空間であるというのも疑問に思うほどであった。

 それはロマンチックに言えばプラネタリウム、悪く言えば、永遠に続く無数の星を内包した闇。

 それはとてもきれいな景色であったが、同時にもっとも孤独な世界を彷彿させた。

 これはっと息を呑む生徒たち、その中、一人、達樹だけが呟く。

「空間投影……しかも、ハーフリアリティ・・・か」

 カランっと吊鐘の音が響き、ピシリっと空間に亀裂が入る。

「本来、人は呪文を詠唱するための声帯を持たず、故に、人間には詠唱式は使えないとされていました」

その亀裂はどんどん広がっていき、

「唯一の例外は楽師マリアと言われていました」

やがてパリンッとガラスが砕けるような澄んだ音が響き、

「詠唱式で必要なのは三つ、魔力と音の波長、そして魔法のイメージ」

星空の空間が音を立てて砕けた。

 そこにあったのは先ほどまで、自分たちがいた元の場所、扇状の教室であった。

 あまりの展開の速さに唖然となる教室。

 その空気を切り裂くように声が響く。

「人が詠唱式を使えない理由は人間の声帯では詠唱に必要な音の波長を出せないことが理由に挙げられました」

 が、と間を開ける女性。

「人の声帯で出せないというのであれば、別の声帯を使えばいい」

それで作られたのが・・・。

「『オートマタ』と呼ばれるもの。人に代わり、呪文を詠唱するための媒体です」

 女性はそう言いながら手に持った先端に鐘を吊るした機械仕掛けの杖を軽く揺すり、カランっと音を立てる。

 ゴウッと言う魔力の風が生まれ、再び、儀式領域を展開。
温い、お湯の中にいるようなネットリとした空気に包まれる中で女性はコツンと杖を床に着ける。
 その時、彼女の周囲に四つの白く光る球体が作られる。

「そして、そのオートマタに魔力を送り、魔法のイメージを作り出すことによって、魔法は完成します」

 このように、と続け、女性の周囲に浮いていた光の球体がはじけ、光の破片が雪の様に教室内に降り注ぐ。

「わぁ・・・」

 そのあまりに幻想的な景色に溜息を吐く生徒たち。

 その中、コンコンっと教卓を叩く音が教室内に響く。

「この詠唱式にも詠唱によって属性や、特性が付与されます。この魔法は火と幻ですね」

 女性はそう言いながらチャリっとスリットに差し込まれていた金属板を引き抜き、目の前に掲げる。

「詠唱式においてそれらの属性を決めるのはその音色とテンポ。言い換えれば、そのオートマタの原型となった楽器と楽譜のスペルカード゛によって決まります」

 その金属板には幾つかの凹凸があった。

「これが、オートマタにおける楽譜、スペルカードです」

 そう言って金属板を近くの席に座っていた生徒に手渡し、回すように指示する。

「別の言い方をすれば、ラジカセのテープですね、内容は呪文ですけど」

 そこでクスクスと笑い、ふと、手首に着けた腕時計に目を向ける。

「もうそろそろ時間ですね、では今日の授業はここまで。次回は訓練用オートマタを使った本格的な魔法を使った授業を行うので魔道訓練場E−67に集まってください」

 その言葉を待っていました、とでも言う様に終業のチャイムが教室内に鳴り響く。

「きりーつ」

 朔夜の決して大声ではない、だが教室内に響くその声に学生たちが席を立つ。
 当然、達樹も億劫そうにではあるが、音を立てずにスッと立ち上がる。

「礼!」

 朔夜の号令に従い、達樹も静かに礼をし、次の瞬間、あっという間に騒がしくなる。
 ゆっくりと教室を出ようとする女性の教師をゆっくりと目で追い、その途中で視界に鋼の金属板が自分の席の近くにある机の上に置かれているのを見つける。

 それを見た達樹は溜息を吐きながらもその金属板、スペルカードを手に取り、すでに教室から出ていってしまった女性を追って教室を出る。

 廊下に出てすぐ、腰まである長髪を揺らし、離れていく女性を見つける。

「ミサト先生」

 その女性の教員、ミサトは歩みを止め、達樹の方へ振り返る。

「あら、達樹君?どうしたの?」

 その言葉に達樹は静かに手に持ったスペルカードを差し出した。

「忘れ物です」

 静かで、落ち着きのある若者の声、だが、やはりどこか疲れ切った老人の様な印象を持たせるその声にミサトは目を細めるが、それも一瞬で、次の瞬間、満面の笑みを浮かべる。

「あら、ありがとう。達樹君」
「いえ」

 校内にファンクラブを作るほどの美貌を持つ彼女の笑みを見て、遠巻きにこの二人を見ていた学生たちから暗い、負の感情が達樹に向けて発せられるが、そんなものどこ吹く風とでも言う様に無視し、教室に戻ろうと踵を返そうとする。

「あ、ちょっと待ちなさい?」
「?なんです?」

 それを止めようとするミサトを訝しげに振り返る達樹。
 その達樹に一言、ミサトは言った。



「あなたはいつまで、罪人気取りでいるつもりですか?」



 美里は眉根を寄せ、困ったかの様に、だがはっきりと言う。
 その言葉に達樹も一瞬、眉根を寄せ、苦笑を浮かべ、次の瞬間。

「罪人気取りじゃなくて、罪人で、悪人なんですよ?俺」

 その苦笑は一瞬にして哄笑、瞳にどす黒いものを宿した狂気を孕んだ笑みとなる。
 カチカチっと左手に持った居合刀が鳴り、ゴウゴウっと達樹の体から噴出する魔力が暴風となって体を覆っている。

 その風の余波を受けているミサトはそれでも涼しそうに目を細め、だが若干の悲しみ宿した瞳を達樹に向ける。

「そうして、狂った振りをしても救われるものなんてありませんよ?」

 その言葉に達樹は愉快そうにクックックと笑う。

「救われる?ッハ、誰が?誰を?ミサト姉さん、全然笑えないぜ?」
「全然笑えないのはあなたの方ですよ?」

 そうミサトは言い返すと溜息を吐き、踵を返す。

 その表情には苦悶の色が見えていた。

 その背中を見送り、ふと周囲を見てみる。

 半径五メートルくらいであろうか、それくらいの距離を開けて野次馬が集まっていた。
 そして、そのどれもが憎々しげに、または汚いものを見ているような顔をしていた。

 っち、と達樹は舌打ちをして教室室内に戻る。





目次>>0
第零話>>1
第一話>>2
第三話>>4
第四話>>5
第五話>>6

メンテ
愚者と罪人 第三話 ( No.4 )
日時: 2010/03/24 22:26:05
名前: 巌の蛟#koko102 

愚者と罪人 第三話





「・・・・・・またか…」

 溜息を一つ吐く達樹の前にあるのは借りている寮の部屋の扉。
 その扉にはビッシリと文字が刻まれていた筈だった。

 消えているのはそれぞれ炎、獄、業、独、護、刃の文字。
 それぞれの文字が刻まれた部分を確認し、嘆息する。

「へぇ、護のルーンを引いた奴がいるのか、運がいい奴もいるもんだな」

 そう呟き、トントンっと無秩序に文字を軽く叩き、消していく。

(天、堕、門、善、因、室っと)

 六つの文字を消した達樹は制服のズボンから鍵を取り出し、ドアノブとは反対側に近づけていく。

 そして、そのカギはドアの表面から十数センチ離れたところで空間に溶けるかのように消えていく。

 それはまるで水面である、とでも言うように波紋を立てながら鍵が消えていき、ある程度いったところでそのカギを捻った。

 カチッと音を立て、ブワッと扉が纏っていたであろう魔力の一部が解き放たれ、弱い突風となって制服を靡かせる。

 魔力が巻き起こした突風に目を細めた達樹は扉の状態を確認する。

その扉は表面に外付けのフレームが張り付けられ、その中には文字が刻まれたカードがビッシリと敷き詰められていた。

鍵を持つ手を見るとそこには達樹の鍵を刺したドアノブがあった。

 達樹はそのカギを引き抜いてからそのドアノブを捻り、扉を引いた。

ガチャリっと音を立てて扉が開かれる。

 そこは1LKの一室。
 奥にベランダに通じる窓があり、その手前右には解体された赤い短銃と白い拳銃のパーツが置かれた壁に備え付けられた机がある。
 その反対側にはクローゼット。さらにその手前には壁に固定されたベッドがあった。
 その隣には用途不明の鉄クズや布、雑誌類がまとめて置かれてあった。

 達樹は壁に取り付けた物かけに鞄をかけ、自分は机の前にある椅子の上に座った。
 ドッと腰かけられ木製の椅子がギシリと軋みを上げ、達樹はそれを無視して腰のベルトに差した居合刀を机に立てかけ、目の前に散乱している二挺分の銃のパーツを見る。

 その瞬間、ピコンっという電子音が卓上から鳴った。
 どうやら机に内蔵されたセンサーが反応したようであった。
 それと同時に達樹の視線の先に白い、指先程度の大きさしかない手紙状のアイコンが中空にヒラヒラと浮かんでいるのが目に入った。

 達樹は眉根を寄せ、訝しげにその浮遊する白い手紙を軽くつつく。
 軽い反発のあと、その手紙は一瞬にして封が切られ、机の上に一瞬にして広げられる。

 それは生徒会からの電子メールであった。
 その内容は………





至急
『生徒会特別執行指令書』
罪人
高等部一年三組『雑賀 達樹』
見届け人
生徒会執行部中等部二年『翠山 ミカ』

指令内容


博物館にて違法な魔法の儀式、及び術式を確認。
『訪問者』の存在は確認されていない。
現段階で危険なのは魔法執行者が作り出したと思われる強力な使い魔たちである。

今回はこの使い魔たちの殲滅、及び、犯人の身柄確保、ないしは殲滅が目的である。

尚、現在、確認されているのはマペットタイプ、蝙蝠タイプ、その他のキマイラタイプ。
現段階ではライオンを原型としたキマイラタイプが最優先殲滅対象である。

尚、拒否、及び、逃亡は厳罰対象となる。
この指令書を受け次第現場に急行せよ。



明野学園 生徒会長 認証






 達樹が卓上に空間投影されたメールを読み終えると続いてピコンっと電子音が鳴り、卓上にまた手紙状のアイコンが投影表示される。

 左手で指令書を左にどけ、右手の指でメールのアイコンを突く。
 ポンっと軽快な音を立ててメールが開かれ、中から出てきたのは地図と件の博物館の場所を示したものであった。

 場所を確認した達樹は無言で懐から携帯電話を取り出して机の上に置き、卓上に開かれた二通のメールを元のメールアイコンに戻した上で摘み、携帯電話の上で放した。
 二枚のメールアイコンはそのまま携帯電話の中に吸い込まれるようにして消え、机に備え付けられた赤外線から携帯にデータが転送されたのだろう、外側の画面に『メールを二通受信しました』と表示された。

 そしてすべてのメールを閉じ、机の上に散乱したパーツを手に取り、素早く、だが確実に組み立てていく。

そして組み上がってできたのは白い年季を感じさせるオートマチックの中型拳銃と無骨な赤い大型拳銃であった。

 達樹はブレザーを脱ぎ、壁に立てかけてあった皮のホルスターを身に付け、組み立てた二挺の銃を両脇の下に差し込む。
最後に手を後ろ腰に回し、四連装のリボルバーがあることを確認する。

さらに達樹は居合刀を腰のベルトに付けた刀専用のホルターに差しこみ、クローゼットの方へ歩いていく。
そして、扉を開き、中から紺色のフード付きコートを出し、身に纏う。

 最後にコートの内側を確認し、拳銃の弾数や様々な文字が描かれた数十枚のカードを確認する。

 よしっと達樹は一つうなずくとコートの裾を翻し、机の上にあるものを見つめて止まった。

 それは一つの写真立てであった。
 その中には二人の男女とその足元に寄り添って立っている一人の幼い子供がいた。
 達樹はそれを懐かしそうに、だが悲しそうに見つめ、ゆっくりと写真立てを倒した。

 だが、それでもなお、彼の表情が晴れることはなかった。









「まだなのか?あの野郎は………」

 博物館と公園に挟まれる形である道の上でその中年の男は苛立ち、博物館を睨み付け、呟く。

「遅れました!!」

 その時、中年の後ろにある広場の中、警視庁が作った怒号が飛び交う特設本部の中で元気な少女の声が聞こえ、そちらを見る。

 そこには赤い腕章をつけた明野学園中等部の制服を身に付けた一人の少女がいた。

「明野学園中等部生徒会執行部の翠山ミカです!」

 年相応に高い声の少女、翠山ミカを胡乱気(うろんげ)に見ながら中年の男はコツコツと少女に近づき、ッピ、と敬礼する。

「遠野 幸一郎だ、ここの指揮にあたっている。……あんただけか?」
「いえ、後に罪人・雑賀達樹がきます。私はその見届け人として生徒会執行部より派遣されてきました」

 その少女の言葉に幸一郎は眉根を寄せる。

「あいつは、まだ自分を罪人と呼んでいるのか?」

 その言葉に今度はミカの方が困惑した。

「まだとは?確かあのひとは自分の両親だけではなく幼馴染の母親をも魔法の生贄にしようとした上、その手で実の両親を殺したと聞いていますけど?」

 その言葉に幸一郎はムウッと唸り、眉間にしわを寄せて言う。

 それは言おうか言うまいか苦悩しているようであった。

そして、

「すみません、遅れました」

 警察官の怒号が飛び交うなか、物静かにだが若々しく、それでいてどこか疲れ切った老人の様な印象を聞く者に持たせる声が響いた。

「遅かったな、雑賀」

 幸一郎が振り向き、声のした方には制服の上に紺色のフード付きコートを身に纏った少年、達樹がいた。

「幸一郎警部、お久しぶりです」

 お互い親しそうな言葉でありながら片方は不機嫌そうに、片方は無表情に言う。

「あの、お二人はお知り合いだったのですか?」

 二人に挟まれるかのように立っていたミカは小首を傾げながら聞く。

「雑賀の事件にはオレも調査に参加したからな、その際、知り合った」
「……それで状況はどうなっておりますか?」

達樹の問い掛けに幸一郎は、ああ、と返事をしながら仮設本部に来るように手招きする。

 達樹たちはその後ろを付いていく。

 その先にはパイプで骨組みされたテントがあり、その下には通信機器と博物館の地図や書類が広げられ、その前には数人の警官がいた。
 警官たちはこちらに気づくと同時に敬礼し、それにならって幸一郎たちも返礼する。

「場所は反対側にあった建物、望ヶ丘博物館内で起こっている」

 そして幸一郎は机の上に広げられた博物館の地図を指さす。

「見ての通り、博物館は地下も含めて五階建てで、地下が搬入口と倉庫、地下駐車場として機能している。予想しての通りかなり広い空間で、この駐車場には四つの魔法陣が描かれているのが確認されている。大きいのが一つ、その周囲を囲むように小さい魔法陣が三つ。大きい方は励起状態であるが用途は不明、その周囲に展開せれている魔法陣は転移系であることが確認されており、その中から無数の使い魔が出現していて、詳しいことは調べられなかった。そして一階には受け付けと展示スペース。過去の戦争、『訪問者』のことが展示されたスペースがあり、その関係上、物陰が多く、模型も多いため隠れることは簡単で、特にマペットタイプには格好の場所といえる。なんせ『訪問者』の体はこの『現世』にあるものを中心に形作られることが多いからな

 また、室内は二階と吹き抜けになっており、二回からの急襲に気をつける必要がある」

 そして幸一郎はとある一点を指さす。
地図には一つの四角いブロックと十字の形をした四つのブロックが描かれており、彼はその四つある十字ブロックの一つを指さす。
 そこは隣にF1と書かれており、中心から下の部分はすべて大広場で形成されており、その部屋の北西の角にはカウンターがあり、その隣には展示エリアへ通じる扉があった。

 また、中心部は二階と吹き抜けとなっているようであった。

 十字架の右、東側には『訪問者』の資料、西側には戦争についての資料と魔術、魔法、楽師マリアのことが展示されている。

 そして十字架の上、最北部には二階へ通じる階段がある。

 そこで幸一郎はその隣にあるブロックへ指を動かす。

「二階は中心部が一階と吹き抜けとなっており、天魔戦争時に作成されたオートマタやスペルカード、『御魂』が封じられたものでる『呪物』、などが展示されている」

 そして、幸一郎の指は斜め下へ向かう。

「そして三階にはレストランと休憩所兼展望室、売店がある、そして」

 再び指が動くそこには。

「ここが四階、博物館の最上階だ。南側が事務室、東側が休憩室、西側が館長室、そして、北側が金庫。中には禁書指定のものが保管されている」
「禁書ですか!?」

 幸一郎の言葉にミカはビクリと肩を震わせ驚愕する。
達樹も眉根を寄せる。
 それを無視して幸一郎は話を続ける。

「数はそれほどでもないが厄介なものが一つある、これだ」

 そう言って傍らに置いてあったファイルをポンっと達樹に渡す。
 それを受け取った達樹は訝しげにファイルを開き、目を見開く。

「『Grant someone you wishes(あなたの願いを叶える)』だと?なんでこんな禁書がここにある!!」

バンっとテーブルの上にファイルを叩きつけ、達樹の怒声とともに放出された魔力がビリビリと空気を震えさせる。

 ビクリっと再びミカの肩がふるえ、幸一郎も眉根を寄せ、内心の苛立ちを抑えている。

「……あの事件の後、ここに移送されたのだ。上の方ではこの事件をそれほど深刻に考えてはいなかったようだからな。
まあ、考えてみれば当たり前か、未来どころか過去の出来事すら変える因果律操作公式。そのような夢物語、誰も信じんからな」

 そう言って幸一郎はミカの方を見た。

「……『Grant someone you wishes』は別名、『赤い血の本』と呼ばれていて、七年前の事件で実際に使われたものだ……」
「!!それって!?」
「ああ、事件当時に彼が使ったものとされるものだ」

 そう言って幸一郎はスッと達樹の方を見る。
 達樹は苦虫を噛み潰した様な苦々しい顔で地図を睨む。

「……それで、被害は?」

 その達樹の言葉に幸一郎は顔を背け、小さく掠れそうな声で答えた。

「……突入を試(こころ)みた隊員数名が怪我をしたが命に問題はない。だが、中に残っていた館員たちの安否は不明だ。・・・・・・おそらく」
「……もう手遅れでしょうね」

 幸一郎の言葉を引き継いで言う達樹にミカは怯えた目を向ける。
 そしてその目はどこか希望を信じているようであった。
 ・・・無駄なことを・・・・・・。

「そんな、こと、ないですよ?希望を捨ててはいけませんって!」

 周囲を元気付けるように言うが達樹は首を横に振って否定する。

「……相手がテロリストだったら生存している可能性もまだあった。だが、相手は魔道士で、その理由は違法魔法の使用、そして下手をすればその魔法自体が、『人』という存在を『贄』にしたものの可能性がある」

 達樹のその言葉に思わず蒼白となるミカ、だがそれでも明るい、女子特有の高めの声で明るく言う。

「『贄』って、その少し血を取って、魔法の媒体にする程度でしょ?」

 だが、達樹は再び首を左右に振る。そして、逆に厳しい目でミカを見る。

「その少しの血で強力な魔法が使えるんだ、人間のすべて、血も、皮も、肉も、骨も、そして魂もすべてを魔力に変換すれば一体どれほどの威力になるか見当もつかない。人間一人でそれだ。
今、館内に何人いるか知らないが、それでも十人前後はいるはずだ。それだけの人間を生贄にすればどんな無茶な魔法だろうと何かしらのことは起きる」

 その言葉にゾクリっと肩を震わすミカを横目に達樹はクスリッと笑みを浮かべ、幸一郎の方を見る。

「それで、どうすればいい、現場指揮官殿?進入路は三つ、下か、正面か、上かだが?」

 その笑みは狂気に満ちた笑み。

 狂気と殺意と憎悪。

 その全てを内包したその笑みに、幸一郎は冷や汗が頬を流れるのを意識しつつ、冷静を保ちつつ言った。

「ハニーの下着パクておいてよかった。お陰で冷静に慣れたぜ」
(正面から頼む、できるだけ派手に、だが建物はあまり傷付けるな。修繕費の請求が来られたら面倒だ)




 その瞬間、ビシリッと空気が凍った。




「・・・・・」
「・・・・・」

 テント内に一緒にいた警官たちは手元の書類やら機材やらを前に固まり、ミカも引き攣った笑みを浮かべながら幸一郎を凝視している。
達樹も笑みはそのままであったがそれは狂気を孕んではおらず、どちらかといえば驚愕と困惑で固まっていたようであった。

「貴様が暴れている間にこちらは地下の魔法陣を調べる・・・ってどうした?」
「・・・・・」
「・・・いや、なんでもない。確認するが俺は正面から突入でいいな?」
「?ああ、それで構わん。しかし、」

 周りの連中はどうして固まっているんだ?と戸惑う幸一郎を達樹は無視して未だに固まっているミカの襟首を掴み、ズルズルと引きずりながら博物館へ歩いていく。



目次>>1
第零話>>2
第一話>>3
第二話>>5
第四話>>6
第五話>>7
メンテ
愚者と罪人 第四話 ( No.5 )
日時: 2010/03/24 22:46:24
名前: 巌の蛟#koko102 

愚者と罪人 第四話





 携帯電話に入れた指令書を見せ達樹はズルズル、とミカを引きずりながら歩く。

 望ヶ丘博物館の前に作られたバリケード兼検問を通り抜け、建物の前に立った達樹はいつもの疲れた老人のように一言。

「……まあまあの大きさだな」

 これから自分たちが入る建物を見上げる。

 モデルとしては近代西洋のようで、白いレンガ模様の壁が教会のようにも見える。

「見届け人、名前は?」
「・・・・・」
「・・・・まだ固まっているか・・・」

 そう言って溜め息を吐き、ミカの後頭部へ肘鉄を叩きつける。
ゴッと鈍い音をたて、次の瞬間、ドシャッと地面に倒れる。

「……気絶しやが、・・・気絶していたか」

 達樹はそう呟くと手元にある武装を確認する。
 白い中型オートマチック拳銃、ハンティングラビットに赤い大型オートマチック拳銃、ダンテ、四連装式大型リボルバー拳銃、ルシフェルに文字が描かれたカード、腰にある白い鞘に収まっている居合刀。

 それらを確認し、達樹は懐からダンテを引き抜き、入口の前に歩み寄っていく。
 そして目の前に立ち、懐から今度は携帯電話を取り出し、呼び出しボタンを押す。

「・・・こちら罪人、突撃五秒前、…三、…二、…一……」

 ガシャンっと自動ドアのガラスを蹴り破り左手に持ったダンテを構え、ゆっくりと中に入っていく。

 ジャリっと砕け散ったガラスの破片を踏み砕きながら達樹は周囲を見回す。

 室内は焦げ茶色のフローリングの床に白い壁、それも下半分まででそれより上は空色であった。

 達樹は携帯電話を懐にしまい、右手を空手に、左手にダンテを握る。
 ふと、左手にあるカウンターを見る。

 そこには青いスーツ姿の女性がいた。
 恭しく笑みを浮かべながらこちらに一礼。
 達樹は小さく会釈を返しながらゆったりと歩み寄っていく。

「館内に入場をご希望の方はこちらでチケットをご購入してください」
「・・・いくらだ?」

 コツッとカウンターの前に立つ達樹。
 それに女性はにっこりと笑みを浮かべて言う。

「入場料は、あなた様の肉体でごZayyyaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 キィィンっと耳を劈くような声、咆哮を上げ、女性がカウンター越しに飛び付いてくる。

 否、それはすでに人間ではなかった。
 木目の肌にガラスの目。手首からは鈍く光るナイフの刃が突出している。



 マペット。



 それが一般的な名前である。
 元は天魔戦争時、悪魔側が用いたもので要人等の暗殺に用いられるはずであった。
 が知能が低く、また隠蔽も短時間しかできないため、おもに奇襲する際に使われた。
 その姿は多種多様であり、人型のほかに犬や猫などもあれば、これのように木製や金属製、ゴム製のものまであり、魔道士内ではポピュラーな使い魔と呼べるものである。

 その女性型マペットはカウンターを飛び越え、両手のナイフを一閃、達樹の急所を狙い振り下ろす。
 だがそれよりも早く、達樹は半歩後ろに下がり、左肩を前に半身の形になってそれを躱す。
 それと同時にダンテの銃口をマペットの眉間に当て、引き金を引く。
 ドンッと鈍い音を立て、マペットが後方へ吹き飛び、ガシャンっと床に落ちる。

「ッチ、やはりコアを破壊しないとだめか・・・」

 床に落ちたマペットを睨む達樹がそう忌々しげ呟く中、マペットはなんでもないというかのように立ち上がる。

 それと同時にババンっと奥へとつながる扉が達樹側に吹き飛び、その向こうから別のマペットが飛び込んでくる。

 その手には鎌の刃や皹だらけの剣、槍などを持っている。

 その数、達樹によって頭部を吹き飛ばされたマペットを足せば計四体。

 そのどれもが木製のものらしく、ギギギっと体を軋ませている。

「・・・・ッハ」

 それを見て、達樹は挑発的な笑みを浮かべ、四肢に魔力を流し、懐からハンティングラビットを引き抜く。

 万物の元、生命の息吹、時空の異物とさまざまな名前で呼ばれるマナ、魔力を体に流すことにより、達樹の周囲を透明な陽炎が覆う。

「……来いよ」

 その言葉を皮きりに、ズダンっと四体のマペットが達樹に向って飛びかかる。

 二体のマペットが鎌の刃と剣を達樹に向って振り下ろす。

 それを達樹はバックステップで躱し、それと同時にダンテとハンティングラビットを二体のマペットに向け、弾丸を撃ち込む。

 ガガガン、と弾丸を撃ち込まれるマペット二体。
 銃撃によって両腕と足がもげ、頭部も弾丸にえぐられる。
だがその運動エネルギーまでは削りきれず、こちらに圧(の)し掛かるように迫る。

 それを達樹はダンッと足に力を込めて後ろに飛ぶことでかわす。

 そして、達樹がもといた場所に二体のマペットが落ちる。
 ガシャンっとバラバラになるマペット二体。
 その時、カウンター側から頭を吹き飛ばされたマペット、バラバラになったマペットの向こう側から槍をもったマペットが達樹に襲いかかる。

 シャッと人形とは思えないほどの鋭い突きを放つ人形に、達樹は両手に持った二挺銃を放し、前屈み気味に前に一歩踏み出す。
シャっと頭上を通り過ぎる槍。それに被せるかのようにマペットの顔面を殴りつける。
メキャっと異音を立て、グルンっと殴られた頭部を軸に回り、仰向けになって達樹の足下に落ちるマペット。
 だが、達樹はそれを見る前にマペットが持っていた槍を奪い、頭上に掲げる。
 そこにガキンっとナイフの一撃が入る。

 首なしマペットが振り下ろしたナイフを槍で受け、次の瞬間、達樹は受けたナイフの刃を後ろに受け流すように半歩下がり、腰を捻りながら手に持った槍でマペットを横薙ぎに殴りつける。
 グシャリっと拉げる音を立て、床に落ちるマペット。

 達樹は足下にいる二体を見下ろし、躊躇なく、その胸部を踏み潰した。

グシャリ、グシャリ、と木製の胸を踏み潰され、ビクリっと体を震わせて次の瞬間には物言わぬ人形と化していた。
 それを確認した達樹は、今度は剣と、鎌の刃を持ったマペットの方を見る。
 ギギギ、と体を軋ませ、立ち上がろうとする二体のマペットに対し、達樹は槍を手放し、床に放り捨てた大型オートマチックのダンテを拾いあげてマペットの胸部に向けて引き金を引いた。
 ドンドンドンドンっとダンテが重い銃声を上げ、二体のマペットがまるで操り音をなくしたかのように床に倒れる。

 シューっと銃口より出る硝煙をフッ、と息で消し、ハンティングラビットも拾い上げ、懐にしまう。

「……この程度か?」

 目を細め、訝しげに呟き、達樹は奥に続く蹴り破られた扉を睨む。
 中心部に長方形のモニュメント、いや、化石が設置されているのが見える。

 達樹はゆっくりと奥に進んでいき、バッと後ろに振り返り、ダンテを向ける。

「・・・見届け人か。・・・・いくら初めてでも不用意だぞ」

 そう言いながら銃口を上にどける。

 その視線の先には後頭部を抑えながら片手に銃を構えるミカの姿があった。

「・・・・でしたら気絶させないでください・・・このことは生徒会長に報告させていただきます・・・」

 その言葉に達樹は眼を細めてミカを睨み付け、それにビクリと肩を震わすミカ。

「・・・勝手にしな」

 達樹はそう言って踵を返し、奥へ歩いて行った。

 その背をミカは敵を見るように睨みつけた。

「・・・・やっぱり、人殺しだ・・・」

 そうポツリと呟かれたミカの言葉に達樹は横目に見る。
 疲れた老人のような瞳を一瞬浮かべ、次の瞬間、忘れた感情を思い出したかのように口角を上げ、狂気の笑みを浮かべる。

 オオオオオオオオオオオ!!

 その瞬間、獣の咆哮が響いた。

 その雄叫びに達樹とミカはすぐさま獲物を構え、周囲を見る。

 達樹は大型オートマチック式拳銃のダンテと大型リボルバー式拳銃ルシフェルを両手に持ち。

 ミカも大型拳銃を構える。

 達樹はルシフェルを奥へと続くほうへ向け、ダンテはどこから来ても対応できるように構える。

 ミカは前にのみ・・・・素人か。

 横目にミカの構えを確認し、先程の咆哮の主が来る気配がないと知ると達樹はダンテをしまい、腰のホルスターに差した居合刀の鯉口を切り、その柄に左手を添え、扉に向って歩き出していった。

 その後ろをゆっくりとミカが追う。

 中は長方形の化石、レリーフを中心に模型やらなんやらの残骸が所々散乱している。

「・・・不意を突くにはもってこいの場所だな」

 そう呟き、達樹は左右に続く通路を見る。

「両端とも同じ飾り付けになっているようだな」

ダルそうにそう言って、再び達樹は周囲を見回し、左手の方へ歩いていく。

「・・・って、どこに行くつもり?」

 そこに、背後からミカが声をかける。

「指示には派手に暴れろとあった。だが、敵がいない以上、それができないだろ?せっかくだから観賞でもしようと・・・」
「っな、まじめにやってください!!」

 ミカの怒声が響く中、達樹は疲労感を漂わせるような、ニヒルな笑いを浮かべ、言う。

「分かっている。今度は派手にやんよ?」

 そう言い返すと、達樹はダンテを懐にしまい、代わりに二枚のカードを取り出した。
 そのカードには赤みを帯びた黒で一文字、描かれていた。

“鋼”

 そう描かれた二枚のカードを両手の革手袋の下、手の甲のところに入れる。

「?何をしているのですか?」
「何って、魔法の準備だが?」
「っへ?あんたは魔力、空気中のマナや自身に貯蓄される魔力をそのまま戦闘に転用する魔術師タイプと聞いてたけど?」
「・・・これは記号式、通称ルーン魔法の触媒だ。ルーン文字の特性は知っているよな?」
「はい、方陣式、詠唱式、紋章式は儀式領域内で術を行使し、領域外にその効果を発生させることに対し、記号式は儀式領域内にのみ特定の効果を発生させる。故に魔道士内ではあまり戦闘には使用されず、おもに強化、付与に使われるものって記憶してるけど・・・」
「だったら答えは簡単、鋼のマペットが出たらさすがにキツイからな?備えだ。備え」
「・・・でも、それは拳銃をしまう理由にはならないんじゃ?」

 ミカのその言葉に達樹はクックック、と笑い、言う。

「死角が多い、障害物に囲まれている場所じゃ逆に銃は危険なんだぜ?」
「なんでです?銃の方が間合いは広いじゃないですか」

 その言葉に達樹は口角を釣り上げる。

「へぇ?死角から至近距離から襲われてすぐさま狙いを定められるのか?それはすごい。ぜひともご教授願おう」
「できないんですか?」

 そんな達樹の皮肉をミカは不思議そうに首を傾げて返す。

「・・・・」

 その言葉に一瞬、キョトンとなり、次の瞬間、苦笑を浮かべた。

「まいった。俺の負けだ」

 そう言って達樹は過去にでた訪問者と看板が飾られて道を通る。

「かなり荒されているな」

 模型や台、棚や柱などの破片や、残骸が所狭しに散乱しており、文字通り、足の踏み場がないと思えるほどである。

「・・・文字通り、ジャングルか?ここは」

 思わず、といっても疲れた老人のような印象はそのままだが、そう呟いてしまうほど荒れ果てている。

 そして、足元に転がっているマネキンを蹴りあげる。
 ドゴッと蹴り飛ばされるマネキンにミカは眼を細めて馬鹿にするような顔をして達樹をみた。

「・・・・見苦しいですよ?」
「・・・馬鹿か?お前は・・・・」

 その次の瞬間、蹴り飛ばされたマネキンは次の瞬間、まるで命を持った生き物のように腰を捻り、スタッと四肢を動かし、着地する。

―――皹だらけの壁に垂直で。


「・・・・は?」

 思わずぽかんっとするミカを無視し、達樹はドンと踏み込み、左ストレートを放つ。

 その瞬間、革手袋の甲の部分からボウッと“鋼”という文字が浮かび上がり、魔力の陽炎を纏った拳がマネキン、マペットに襲いかかる。

 ドゴンっと壁を砕く拳。

だが、その場にはすでにマペットはおらず、すでに天井近くに飾られた模型に手をかけ、ぶら下がっている。

「ッチ」

 そこに、達樹は懐から出した赤い文字が刻まれたカードを放つ。

 描かれている文字は“炎”。

 記号式に使われるルーン文字には基本、術者の体液を混ぜたインクが使われ、その縁を通して、魔力を送りその魔法を発動させる。その縁は通称、パスと呼ばれている。

 そのパスを通して魔力が送られ、“炎”の文字が赤く発光する。

 そして、ドンっと爆発した。

 ゴウッと炎が巻き上がり、天井にいるマネキンに襲いかかる。

 マネキンの木製の体が燃え上がり、ギギギッっと軋みを上げ、ボロボロとパーツが床に落ちていく。

「・・・・これは一体・・・」
「一体も二体もない。来るぞ?」

 ドゴンと幾つもの瓦礫が宙を舞った。
 いや、それだけではない、壁からも、天井からも外壁を破壊し、飛び出してくる。

 その数、三十弱。

 その数に思わずミカは体を硬直させ、達樹は口角を釣り上げて笑う。

 そして、再び、四肢を動かし、襲いかかってくるマネキンの大群を殴り倒していく。

 腰を捻り、左右の腕が閃(ひらめ)き、多方向から襲いかかってくるマペットたちを殴り飛ばす。

 その動きはまるで竜巻か嵐。
胴を軸にステップを小刻みに刻み、その両腕は時に棍(こん)、時に太刀、時に鞭、鎌、槍となり、躊躇いなく敵を、砕き、断ち、貫き、粉砕する。

 パパパンっと軽快な音を立て、だが、その音が一つ鳴くたびに首が捥げ、胴がへこみ、四肢が吹き飛ぶ。

「ッチ」

気合いを一つ、ギュオンっと空気を薙ぐ音を轟かせ、姿勢を低くして迫ってきたマペットに平拳(指先から第一、第二関節を曲げた拳)による手刀を叩きこむ。

 メキャリ、と異音を立てて、マネキンの右肩から腰までがその一撃により割られる。
 ドシャと倒れるマネキンのマペットから視線を外し、達樹はギュルンっと腰と足を使い180度ターンをすると同時に今度は貫手(一般的な平手の形)による突きを斜め頭上から迫る二体のマネキンマペットの一体に向け、放つ。

 噛み付こうとしていたのだろう、不気味に開けたマネキンの口の中に達樹の突きが入り、喉へ貫通する。

 そのまま達樹は腰を捻り、バットよろしくマネキンマペットを同じく頭上から襲い掛かってきたマペットに叩きつける。
 っご、と鈍い音を立てて床に落ち、慣性の法則によってシャーっと床を滑り、壁に激突したマペットに自分の腕が突き刺さったままの状態のマペットを投げつける。

 ドゴッとぶつかるマペットに達樹は腕を振り、カードを放つ。

 刻まれている文字は“炎”。

 カードがマペットに突き刺さり、記号式魔法を発動させる。

 次の瞬間、ゴウッと炎が巻き上がり、二体のマペットを焼き払った。

 それを目で確認する間もなく、達樹はドンッと床を踏む。

 それによって床がたわみ、その反動で床に散らばっていた瓦礫が腰の高さまで浮き上がる。
 その中の一つには鉄製のパイプがあり、それをパシンっと片手でとる。

 そのまま手首を回し、ヒュンと音を立てさせて振るう。

 そのまま達樹はパイプをバットのように振るい、後方から迫ってくるマネキンマペットの顔面を殴りつける。

 ッゴ、と鈍い音を立て、体勢を崩すそれに、両手で握りなおしたパイプ管で三連撃。

 頭部、首、右肩。

 達樹の三連撃にそのマペットは頭と右肩をもがれた状態で床に伏せる。

 達樹は両手に持ったパイプを片手に持ちかえ、ミカに向かって投げつける。

「え?」

 ギュオン、とブーメランのように回転するパイプは狙い違わず、ミカの肩をすりぬけ、その背にいたマネキンマペットにぶち当たった。

 ミカは驚いて尻餅をつき、その後ろでドシャッと床に倒れるマペットを達樹は睨み付け、腰に付けた居合刀を鞘ごと引き抜き、後ろに向って、突きを放つ。

 鞘の先端がマネキンの鳩尾を捉え、その手に持っていたナイフが床に落ちる。
 チンッと床にバウンドするそれを達樹は一瞬で蹴りあげ、開いている右手で持つ。

「・・・邪魔だから適当なとこに隠れてろ」

 その言葉にミカはコクコクっと人形のように首を縦に振る。

 それを確認した達樹はナイフを頭上に向って投げる。

 ヒュンッと上に飛んでいく閃光は狙い違わず、頭上の影に突き刺さる。

 ギャウッと短く悲鳴を上げ、その影は赤い液体を滴らせ、達樹の足下に落ちる。

 それは大きい人面の黒い蝙蝠であった。

 ケケケッと鳴くそれを達樹は迷いなく踏み潰し、おもむろに鞘から刀を抜き放つ。

 それを両手で握りしめて下段に構え、フゥ〜っとゆっくり息を吐いた。

「手間だ、一気に仕留める」

 そう呟き、ヒュンっと振り上げる。

 その瞬間、ドゴウ、と魔力の暴風が生まれる。
 その暴風は瓦礫だけでなく、マネキンごと吹き飛ばす。

 数を半数以下に減らされたマペットに対し、達樹はただ、剣を振るった。
 上下左右に閃く銀の閃光。
 それが周囲にいるマペットを切り裂く。

 あわてて距離をあけるマペット。
 その中のいくつかが果敢に達樹に襲いかかるがかの剣の前に体を切断される。

 サーッと雨のような静かな音が響くなか、走るその閃光にミカは驚きに目を見開く。

「・・・・キレイ・・・」

 そう、その斬撃の閃光一つ一つが洗礼された一撃であり、その軌跡は星の流星。

 更に達樹はステップを刻み、それ自体が天災のように、刀を振るう。

 ドンッとその一歩が床と空気を震わせ、床を擦るその動きが嵐を生む。

 それに対してミカの胸に来るのはどす黒いものである。

 それは、怒りと憎悪。

 それと相反するように、打ち消すような悲しみと絶望。

 そして、後悔。

 どうしてそんな感情があるのか、生まれるのか、ミカには分からなかった。

 そう考えている間に全てのマネキンが切り裂かれたのだろう、チンッという澄んだ音が聞こえ、我に返ってみればそこには刀を鞘におさめた達樹が目の前に立っていた。

「・・・・反対側の方へ行く」

 先程の荒々しさを帯びた戦い方とは逆に、その声はやはり、ミカにどこか疲れきった老人を思い浮かばせた。

目次>>0
第零話>>1
第一話>>2
第二話>>3
第三話>>4
第五話>>6


メンテ
愚者と罪人 第五話 ( No.6 )
日時: 2010/03/24 23:00:36
名前: 巌の蛟#koko102 

愚者と罪人 第五話





 それから反対側の展示スペースの方も見て回ったが案の定、敵がいた。
 もっともそこにいたのはマペットタイプの使い魔ではなく、キマイラタイプであり、その分少なめの十数体程度であった。
 だが、それでも生きた獣には違いないのでその部屋は一面赤色に模様替えされたが・・・。

 うう、思い出したら気持ち悪くなってきた。

 その時、ピピピっと言う電子音が聞こえ、ポケットに手を入れる。
 今、達樹たちは一階の上の階へと続く階段の前に立っている。

 そしてミカは懐から携帯電話を取り出し、耳にあてた。

「・・・・了解、では私たちは二階のフロアに上がります」

 ミカはそういうとパチンっと携帯電話を閉じ、元の場所に入れる。

「向こうはこれから突入するらしいですので、私たちはこのまま二階に上がり、このまま敵を引きつけます」

 ミカのその言葉に達樹はコクリと頷く。

「了解。俺が前衛でいいな?」

 そう達樹はそう言ったが、確認を取る前にスタスタと階段を上っていく。

 あっ、とミカが声をあげるがその瞬間にはすでに折り返しの部分を通り過ぎており、姿が見えなくなっていた。

「もうっ」

 ッタ、と小走りに階段を上り、達樹を追う。

 その瞬間、GYIGAAAAAAA!!という獣の雄叫びが通路に響き、ミカは思わず、ッヒ、と短く悲鳴を上げる。

 それに続き、ドカン、バキンッ、ゴキュリッと言う異音が響いた。
 思わず後ずさるミカは、手に持った拳銃を握り締める。

 ゴクリッと息をのみ、ゆっくりと階段を上り、視界が暗転した。



***



 ギュルンっと腰を捻り、馬鹿正直に突進してきたライオン型キマイラの眉間に拳を叩きつけ、突進を止めると同時に再び腰を捻り、今度は上から平拳による手刀を叩きつけ、メキャリっと言う異音を響かせ、キマイラの頭を床に叩きつける。

 グシャっと肉が潰れるような感触を手に感じる中、達樹はすぐさま上体を引き上げ、その勢いに乗ったまま、目の前に迫った蛇の頭部を蹴り潰す。

「ライオンの胴体に、蛇の尾か、伝説通りに作ったもんだな・・・」

 ホウッとそう呟きながら、達樹は次の瞬間、独特の息苦しさを感じた。
 バッと咄嗟にコートの袖からルーン文字が描かれたカードを取り出し、後ろへ、階段の方へ放つ。

 次の瞬間、そのカードは火の玉となり、黒い壁にぶち当たる。
 そう、壁である。
 闇のような、影のような黒い壁は達樹の炎を受け、一気に燃え上がるが、それは依然として直立している。

「っち!!」

 再び、達樹は両腕を振り、両手に計六枚のカードを握り、その壁に向かって放つ。

 そのカードの内、三枚に描かれたルーンは“獄”。
 その三枚のカードは一瞬発光し、次の瞬間、魔力で作られた檻が壁を囲い込み、或(ある)いは魔力の鉄格子がそのまま壁に突き刺さり、動きを阻害させる。
 そして残りのカードがその壁に張り付く。
 その次の瞬間にカードが発光し、その効果を発動させる。
 あるいは壁を真っ二つに“断”ち、或いは風穴を“穿”ち、或いは粉“砕”する。

 だが、そこまでしてもなお、その壁は揺らめきながらも元の形に戻る。

「・・・・きりがない。使い魔じゃない、魔法か?」

 そう呟いた瞬間、ゴポリッと壁の表面が波打ち、内側から先程と同じライオン型のキマイラの頭がヌッと出てくる。

 これは。

「召喚、転移系統の魔法か?」

 そう呟いている間に、そのキマイラの前足がその壁から出てくる。
 だが、その前に達樹はダンと宙に飛び、そのキマイラの頭部に飛び蹴りを叩きつけ、壁の中に押し戻す。

 だが、完全には押し戻せず、まだ頭が壁から出ている状態で留まっている。

 それに達樹は再びカードを持ち、そのキマイラの口の中に拳を突き刺す。
 グシャっと鈍い音を立て、達樹は腕を引き抜き、膝で顎をカチ上げる。

 ギャウっと鳴き声を上げる前にキマイラは完全に壁の向こう側に戻り、次の瞬間、バシャリっと水のように弾ける。

「……空間系統、闇属性の魔法か・・・」

 そう達樹は呟き、っは、と周囲を見回す。

「・・・・・っち、ヤロウ」

 そこに見届け人の姿はなく、代わりにその足元には彼女が持っていた拳銃が落ちていた。

 達樹は半眼になりながらもその拳銃を拾い上げ、次の瞬間に拳銃を手放し、ダダンっとバックステップで階段を飛び上がっていく。

 その達樹が手放したミカの拳銃が置かれていた場所から一気に暗い球体上に闇が広がり、ボウッと赤い炎が闇の中に灯る。

 そして、その闇はどんどん広がっていき、達樹を飲み込もうとするかのように爆発的に広がっていく。

「ッチィ!!!」

 思わず舌打ちをして達樹はなおもバックステップでその闇から逃れようと飛びながら足下に六枚のカードで線を引くように並べる。

 そのカードに描かれた文字は“壁”“断”“絶”。

 次の瞬間、その文字は淡く発光し、透明感がある壁を作り出す。

 その闇と壁がぶつかり合い、バチバチっとスパークが生まれる。

 達樹は壁が闇を抑えている間に建物の反対側に向かって飛んでいく。

 闇の中に灯る火がさらに増える。

 そして、その火は一気に膨れ上がり、達樹が作った壁を焼き消そうと闇の中から飛び出し、その威力にビシリっと壁にひびが入る。

「爆弾かこれは!?」

 思わず叫び声じみたものを吐き出しながらも達樹は再び服の袖からカードを取り出し、今度は正方形の枠を作り出すかのようザーッと腕をまるで円を作るかのように振りカードを横へ放つ。

 そして、そのカードすべてへ魔力を流して、走る速度を上げる。

 ダンッと床を蹴り、それ自体が風であるとでもいうかのように走る。

 そして、バリンッとガラスが砕けた様な軽快な破砕音を響かせて炎が壁を破り、走る達樹に迫る。

 だが、その前に先程作ったカードの枠が新たな壁となってその炎を遮る。

 それを達樹は眼ではなく耳で確認し、そのまま、腰にある居合刀に左手を添え、目の前の行き止まりに向って。

 居合切り。

 ズザンッと一筋の銀閃が円を描き、ガコンっと音を立てて壁がゆっくりと外に向かって倒れていく。

 次の瞬間、ビシリっと壁にひびが入り、徐々に炎に押され始める。

 達樹は脇目も振らず、ダンと壁の向こう、外へと飛び出す。
 それと同時に袖から一枚のカードを取り出して、中空に軽く放り、それを蹴る。

 そのカードに描かれている文字は“飛“。

 次の瞬間、そのカードはドパンっと破裂し、生まれた衝撃波が達樹を上へと飛ばす。

 そして、その達樹がいた場所にゴアッと赤い炎が通り過ぎる。

 さらに上空、博物館の三階を越える高さまで飛び上がり、そのまま前転、蹴り足の勢いに乗り、博物館の屋根の上へ動く。

 ゴアッと空気の鳴く音が達樹の耳を叩く中、腕を振り、円を描くかのようにカードを屋根に向かって放つ。

 ザァーっと張り付けられたカードを達樹は睨みつけながら練りこんだ魔力を流す。

 ボウッとカードに描かれた文字が光る。

 描かれた文字は“炎”と“破”。

 ドゴンッと爆発が起き、屋根に風穴が開く。

魔力の風と自身の重心を変え、体勢と落ちる場所を調整し、風穴の中に飛び込む。

トンッと着地し、周囲を見回す。その瞬間、達樹は息をのんだ。



 赤である。



 深紅である。



 息苦しくはあるが、それは血生臭いものではない。
 それは室内に圧縮された魔力、マナである。

 万物の元、生命の息吹、時空の異物と言われるものがこの空間に収束されている。



 そして、この色は、この色を、俺は見たことがある。



 それは人間の、生命の色、原初が示す色。



 そして、人間の持つ魔力の色。




 それはつまり・・・・。




 ここにいた職員は全員、マナにされたということ。





 腹部からせり上がる吐き気を飲み込み、達樹は前を睨み付ける。

 その先に、黒い人影とその前に気を失ったミカの姿があった。

 その影の背丈は小柄。黒い外套を頭からすっぽりと纏っているため、その程度しかわからない。

 いや、もう一つある。それは。

「お前、それをどうするつもりだ?」

『Grant someone you wishes』

小脇に持った通称、赤い血の本と呼ばれるものである。

 そして、今の自分がある一番の要因。

「答えろ!!」

 怒声とともに、その陰に向かって跳び、右手を腰に差した居合刀の柄に添える。

 ドンッと床を踏みつけ、居合切りを放つ。

 シャンっと刃が鞘より解き放たれ、影に襲い掛かる。

 ザンっと横一文字に振りきられたその一撃は間違いなく影を上下に切断した。

 その影は驚愕に満ちた顔を浮かべ、外套に包まれるかのようにその姿は消えていった。

 忌わしき赤い血の本とともに・・・・・。







 いつの間にか息苦しさも消え、周囲を見回してみれば、先程の異質な赤も消えていたそれはつまり。

 魔力も持って行ったのか、それとも、霧散させたのか・・・・・。

 だが、今、そんなことは関係ない。
 今ある事実は一つ。

 職員は全滅、犯人は逃走。

 そして、

「違法魔道の励起状態・・・・クソッ!!」

 思わず、達樹は近くの壁を蹴りつけ、悪態をついた。

「Grant someone you wishes(あなたの願いを叶える)・・・・。また、地獄を作り出されるのか・・・・」

 ギリギリと忌々しそうに、だが、どこか怯えを持ったその声は達樹をいつもの疲れ、老いた老人の印象を消し去り、むしろ、一人の幼子の様に見せた。

「う、ううん?」

 その達樹の独り言が聞こえたのか、影の足下にいたミカがみじろぎをし、ゆっくりと目を開く。

「・・・・怪我はないかぁ!?」

 刀を鞘に戻し、目を細めながらも達樹はゆっくりと手を貸そうとした瞬間、ミカは跳ね上がるかのように上体を起こし、いかにも強烈そうな張り手を達樹の顔面に向かって放つ。

 間一髪、達樹は背を反らして躱し、居合刀の柄を握りながら後ろに飛んで間合いを開ける。

「ヤロウ、厄介な置きミヤ」
「なに寝込みの女の子襲おうとしているのよ!!」




・・・・・・はぁ。




「本当に厄介な置き土産を置いていきやがった・・・」

 思わず達樹は手を頭に当て、俯く。

「って、ここドコーーーーー!?!?」

 ミカの悲鳴を聞きながら達樹は思わず。

「はぁ・・・」

溜め息をついた。



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第一話>>2
第二話>>3
第三話>>4
第四話>>5



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